とある小さな町に、4人の保安官がおりました。
どの保安官も十代とまだ若く、しかも女の子。
怪しい気配があって怖いとの通報に駆けつけては、
部屋の隅を駆け抜けたゴキブリの陰に、
「きゃあぁあ〜〜〜っ!」
助けを呼んだ女性と一緒になって悲鳴を上げたり。
お魚咥えて逃げた猫を追ってたつもりが、
「誰か降ろして〜〜っ!」
屋根の上から降りられなくなって町の人に助けてもらったり。
迷子の女の子と一緒にお母さんを探してて、
「お母さんたら、どこぉ?」
だんだん心細くなっちゃって泣きそうになってしまったり。
引ったくりが車で逃げるのを制止しようとして、
「うひゃあっ!」
銃を撃ってはその反動で後ろへ引っ繰り返るほどに、
やることなすこと、何とも危なっかしいものですが。
それでもどの子も正義に燃える働き者で、
「無法者の好き勝手は許しませんわっ!」
「きゃあきゃあ、怖いからこっち来ないで!」
「あなたたちがいなくなったら用心棒代も必要なくなる理屈くらい、
皆様、判っているのですよ!」
「逮捕しますわよっ! 本当なんだからっ!」
「こ、怖くなんかないんだからっ、本当ですわよ!」
頑張ってはいたようですが、
少女たちの細腕では限界もあったようで。
町を牛耳ろうとする悪いギャングが隣り町からやって来たのへも、
ちょっぴり震えながらも頑張って。
正義のモップや、教壇用の大型三角定規や、
やっぱり大型のコンパスを振りかざし。
無体にも攫われそうになったのへ、
寄るな触るなと抵抗しておりましたが。
奮闘空しく、
とうとう町の一角へと追い詰められてしまい。
擦り切れた石畳の乾いた白が素っ気ないばかりな、
場末の殺風景な広場にて。
じりじりと間合いを詰められながらも、
小さな肩やら細い背中を寄せ合うと、
決して屈するものかと、
ギャングたちへと向かい合っておりますと、
「そこまでですわ、こんの卑怯者たち。」
どこからともなく轟いたのは、伸びやかなお声での一喝で。
何だ何だと辺りを見回した黒づくめの男らの頭上から、
ヒラリと舞い降りたは、
飾りひもとストールを肩から衿への斜めがけにして留めている、
女学園の校章をかたどったエンブレムも凛と煌く詰襟ブレザーに、
ひだの細かいミニのプリーツスカートと
編み上げブーツといういでたちが、
幼い保安官たちと同じ装束という、こちらもうら若い美少女が一人。
金色の髪を肩先に舞い散らせながら、
伝説の赤モップの長い柄を苦もなく振り回し、
そのしなやかな肢体の背後へも回しての見事にぶぶんと操って見せ。
「年端もゆかぬ少女ら相手に、やりたい放題なんて許しません。」
びしぃっとポーズを決めたその勇ましさに気圧されたものか、
あわわと後ずさり仕掛かった面子の後背には、
また別な殺気がひらりと舞い降りる。
「どわっ!」
「ぎゃあっ!」
問答無用で振り下ろされたは、こちらも伝説の地図差し棒が2本。
強靭な釣竿にも用いられるという、黒く鞣した竹を使った逸品を、
左右の両手それぞれへ握ったまんま。
逃げ腰だった連中の群れの真ん中を突き進み、
そりゃあ器用にビシバシと、
胴斬りよろしく次々に打ち据えてゆく鮮やかさ。
最後の一人をぶち倒し、双腕左右に開いた決めポーズは、
軽やかな金の髪がふわさと落ち着いたのと同時で。
片膝ついての斜に構えているところが、これまたなかなかに凛々しくて。
「な、なんだ、貴様らはっ!」
思いも拠らなかったらしい伏兵の登場に、
焦りもあらわにがなった首領へは、
「あなたなんぞに名乗るほど、
安物の名前の持ち合わせなんかありません。」
一番のしんがり、黒塗りの大型車のすぐ傍らという安全地帯にいた親分の、
太っとい首へ背後からするりと指し渡されたは、
地図指し棒よりは短いものの、
金属ならではなひんやりした感触がドッキドキなアンテナペンで。
「私たちの可愛い後輩さんたちを、
一体どうしようというのでしょうか。」
いきなり冷たい感触が襲い来たのもビックリものだったのだろうが、
何の気配もないままという思いがけない不意打ち、
海千山千な親分にも気づかせぬ接近をこなせた、
さりげなくも渋く凄腕だったところが、
「…ぬう。」
半白の惣領をただただ唸らせたようであり。
大きな車の天井部に、
こちら様もミニスカートだってのも厭わずの、
片膝立てにてポーズを決めた赤毛の少女が、
にっこりと微笑いつつ、
画面からこちらへとウィンクを決めたところで……。
「……何ですか、こりゃ。」
「〜〜〜〜〜。」
ここは八百萬屋のお隣に五郎兵衛殿が借りている、
小じゃれたカウンターバーの店舗内。
今日は営業しておらず、
がらんとした店内の奥向き、
特に装飾はない漆喰壁を大きなスクリーンとし、
身内の3人のみにてのDVD鑑賞会と化しており。
「何か変なポーズ取らせて撮影したあれこれは、
こうなったってワケですか。」
「変な はないでしょ、変なは。」
ほんの5分もなかった短さの映像は、
学園祭のライブでまとう例の衣装を着た、
後輩のバンドガール4人娘と、
そんな彼女らを助けに馳せ参じた存在という、
七郎次に久蔵、平八というドラマ仕立てになっており。
「???」
「ああ、久蔵殿。背景は全部CGですよ。」
「あんなところに行った覚えないのにって思ったんですね。」
それでなくとも忙しい日々であり。
遠出なんてするどころじゃあない、
とうとう、学園の超ご近所である平八の下宿先、
八百萬屋に泊まりがけでという身にまでなった三人娘だったりし。
『だって、麺屋さんへの発注、
済ませてなかったんですよ? あの子たちってば。』
いつ掛けても話し中なんですもの、じゃないっての。
めん類と粉ものがメインだってのに間に合わなかったらどうすんの。
掛かるまで何度も何度もリダイアルし続けんかと、
剣道部の後輩さんの手際の悪さへ
ぶちぶち言ってたのが白百合さんならば、
『ウチは工作が苦手な子ばかりなのがちょっとねぇ。』
絵を描くことしか知らないというか、
それにしたってお花を生けるくらいは似たような作業でしょうに、
絵を飾った傍にドライフラワーの装飾を置くとかいうのが
壊滅的にド下手ですし。
手製の額縁をビーズやストーンでデコルとか、
カラータイルを使ってデコパージュするとか、そんな単純な作業さえ、
手取り足取りじゃないと出来ないってどう思います?と
さんざん愚痴っていたのはひなげしさんで。
『〜〜〜〜〜〜。』
意外や意外、紅バラさんにもご不満は多きにおありだそうで。
来賓招待日に斉唱をご披露する楽曲が、
候補4本中のどれとどれにするのか、まだ決まっていないのだとか。
どれも同じほど練習しているから、
どれに決まっても余裕といや余裕なのだが、
『………………。』
『そうですよね、決まれば練習へも集中しやすいし、
何と言っても手間は半分で済みますのにね。』
実質の練習に当てる時間は同じ…なように思えるかもだが
実際はそうはいかない。
じゃあ次の曲…と、いちいち心構えを変える必要があるし、
微妙な空隙が出来るのでせっかく高めていた集中も雲散霧消してしまい、
何ともぼへぼへした練習になっているらしく。
『日が迫っているのにこれは無いですよねぇ。』
マイペースなはずが、周囲の方がもっとマイペースだったものだから、
それぞれの現場でついつい
三者三様の“きぃい”を溜めたり拾ったりしている模様であり。
そんなこんなの合間に、
そっちもしっかりとこなしてたバンドの合同練習も、
何とかモノになったのでと、終しまいと相成ったのが昨日の午後で。
「本番は3日後ですが、
それまでの間は顔合わせさえ難しそうですものね。」
「だよねぇ。」
バンドであれ吹奏楽であれ、楽器での合奏というものは、
各人のテクニックよりも、
お互いの間合いを合わせることこそ大事だというのは判っているが、
何せばたばた忙しいので、物理的に無理とあって、
実質の練習は終えたという運びになり。
それもあってのプチ合宿状態となったお三人。
遅くまで居残りして、本番での設営やら支度へのマニュアルを作ったり、
そんなこんなのずっと前段階だろう、資材や食材の発注や確認も、
心配だからと細かくチェックしていた七郎次や平八だったりしたようで。
「だって、キャンバスだけ丸裸で飾ってもいいのかって
この温厚な私がキレそになるくらいに、
何ぁんにも飾り付けを思いつけないのよ、信じられます?」
「………。(こ、怖)」
「ヘイさんヘイさん、無表情で両目とも開眼は怖いです。」
久蔵は久蔵で、籍をおくバレエ団の公演、
実は間近に大きいのがあるらしいので、
そちらのための基礎レッスンも欠かさずにおり。
それらこれやも何とか落ち着いて、
やれやれと借りたお風呂で温もった身を延ばしておれば、
平八が何やら楽しそうなお顔をし、
二人を来い来いと手招きで誘っての、
“いいもの見せてあげましょう”と来たもんで。
「これって、結構手が掛かったんでしょうに。」
久蔵の実家の半地下に設置されていた、
防音設備完璧なホームシアタールームにて、
エレキギターやシンセサイザーを扱う演奏練習の隙をつき、
『はい、これ持って見栄を切る』だの、
『上から飛び降りて来たような雰囲気出して』だのと、
何がどうとは聞かされぬまま、
動画を撮られた白百合さんと紅バラさんだったのだが、
その完成品が、今の今 お披露目されたショートフィルム。
「だってほら、私たちは4曲目からの乱入でしょう?」
「乱入って……。」
袖からどうもどうもって出て来るだけってのも面白くないので、
ステージにパブリックビューばりのモニターを用意して、
「これを流してからの登場って形にしようと思ったんですよ。」
「おおお。」
「〜〜〜。//////」
講堂での公演だったならスクリーンが使えたのですが、
野外ステージではそうもいきませんしねと、
平八はあくまでも段取りのほうへ頭が移っているらしかったが。
彼女はさんざん観た身だからであり、
「アタシら、正義の味方のそのまた味方ですか?」
「ヒロインのピンチっていうクライマックスに、
新キャラが助っ人として登場するってのは
よくある設定じゃ無いですか。」
あのせえらーむーんだって、
後半の未来編から高校生の戦士が加わったじゃないですかと、
やたらお懐かしい例を出す平八へ、
「じゃあアタシら美少女戦士なのですか?」
「このPVの中では、ですがvv」
言ってくれたらもっとちゃんとした型をご披露したのにと、
そっちへ不評らしい七郎次とは異なり、
「???」
最初まで戻してもう一度見直している久蔵は、
何へか小首を傾げっぱなしで。
「どしました?」
「こいつら、もしかして。」
画面の中の黒づくめスーツの悪役たちを指さす紅バラさんへ、
ありゃ気がつきましたかと口許に手をやった平八。
「全部ゴロさんと私です。」
「〜〜〜。」
「うあ、それってどんな合成なのよ。」
学校でも放課後も、そりゃあ忙しかった中、
だってのに、こういうものまで作ってしまえるヘイさんて…と、
それへはさすがに、七郎次も呆れたらしく。
だがだが、
「結構楽しい作業でしたよ?」
つか、もどかしいほど抱えた憤懣を晴らすのに、
丁度いい手遊びだったというか。
そんな風にけろりと言ってのけるところが
恐ろしいというか頼もしいというか。
「………。」
「そういえば、昔も根詰めて作業してましたしね、ヘイさんたら。」
懐かしい、かつて侍だったころの、
あの弩(いしゆみ)作りの徹夜作業を思い出した七郎次だったようで。
………物凄いもの思い出しましたな。(う〜ん)
「そうそう、
ゆっこちゃんたちのクラス、何するか知ってる?」
「???」
「なんと、トランプ道場っていうアトラクションですってよ?」
テーブルを幾つか据えて、
神経衰弱とかスピードとか、
トランプでのお馴染みなカードゲームでの対戦をして、
買ったらお菓子がもらえて、
負けてもキャンディの参加賞がもらえるのだとか。
「楽しそうですね。」
「手が空いたら遊びに行きたいとこですね。」
「………♪」
お祭りは、実は準備期間こそが一番楽しい思い出ともいいまして。
何ともう明日は来賓招待日という“幕開け”まで迫った、女学園の学園祭。
大騒ぎしての準備、どういう格好で功を奏してくれますことやら、ですね?
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*さらっと流そうとか企んでいた“学園祭”ですが、
当日が楽しみですというお声をいただいたので、
内容も浚ってみましょうかねと。
タイトルからして既に怪しいですが、
どうか、ぐだぐだになりませんように…。(こらこら)

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